存続危機?






「今年の入部希望も、99%ゼロ…だな」

放課後。
音楽室の床で胡坐をかき、深刻にパーセンテージで予測を口にする長身の男子生徒が1人。
彼の名は大瀬龍冴。この水守学園高等部の軽音部副部長である。
普段はお調子者で馬鹿ばっかりな彼が深刻になっているのには理由がある。

「何でそう思うの?りゅーご、というか1パーセントは残ってるんだね〜」

対照的に、まったりした口調で龍冴の発言を聞いているのは、木ノ宮聖。
紅に染めた長い髪を一つに結んでいるこの部の部長だ。
暢気な回答をする聖に対して龍冴はまじめに言葉を続ける。

「おまっ、思い出してみろ!体験入学のときに見学しに来た奴ら!!」
「いっぱい来てくれたよね〜」
「だぁ〜っ!そうじゃなくて!!あぁ、お前アホか!そうか、アホいんだな!!…知ってたけど!!!
 見学者99パーが女子で、100パーお前目当てだったろっ!!」

聖のまったく危機感のない回答に、龍冴は少し苛立ちながら言い返す。
そう、女子ばっかりだったのだ。
普段はこんなにアホでのほほんとした聖だが、こう見えてもプロバンド「Stells」のギタリスト。
…つまり、見学に来た中学生の殆どが聖を一目見ようと集まったということなのである。

「そんなに慌てなくても大丈夫だとオレは思うけどねぇ〜…」

龍冴の苛立ちも無駄に、さらにまったりと意見する聖。
それを聞いての龍冴の返答は、若干呆れ混じりになった。

「お前なぁ;この前の部長会議…つっても、お前仕事で居なかったから俺が代理で出たけどさ!
 4月中に部員集めねーと、廃部になっちまうんだぞ?…もうちっと危機感持てよ;;」

昨年も新入部員が居なかったが、3名の先輩が居た為メンバー確保はされていた。
しかし、その彼らが卒業した現在は、3年生になった聖と龍冴の2人のみとなってしまったのである。
廃部の危機が迫っているというのにもかかわらず、相変わらずなペースの聖に龍冴は疑問を抱く。

「大丈夫だってば。龍冴は焦りすぎだよ〜?1人は必ず入るから。」
「なんでそんな自信有りなんだよ;お前;;」

聖の確信有る言葉に、龍冴はさらに疑問を浮かべる。
聖はそんな龍冴のために言葉を続けた。

「龍冴、気づかなかったんだ?見学のとき、真面目に見てた男の子居たんだけど…」
「…え?まじで??まったく気づかなかった。お前、そういうとこはしっかり見てんだよな;;」
「ははは、龍冴が見てなさ過ぎなんだよ〜。」

龍冴は真面目に気づいてなかったようで、聖の言葉に驚く。
聖は椅子から立ち上がり、伸びを一つすると音楽室の床に座ったままの龍冴に目線を移す。

「さてっ!明日から忙しくなるよ〜」
「…おうっ!勧誘、だな!!」
「…あっと、そうそう…」

強く頷き、龍冴も立ち上がる。
そうして聖は龍冴に紙を差し出し、龍冴はそれを受け取った。

「やっと出来たか、待ちくたびれたぜー?」
「それは…うん。ごめん。思ったように上手くいかなくて…」
「まぁ、やって貰ってる身だからそんな責めらんないけどなー」

現在この軽音部の作詞・作曲は部長である聖が全て担当している為、全て任せてしまっている龍冴は多少なりと申し訳なさそうに言う。
それに対して聖はというと、「そんな言ってもらえるほどのコトしてないから気にしないで〜」と返す。

「…っと、いい加減帰るか!先生に見つかんないうちに…!」
「えぇ?!…うわ、完全下校時刻過ぎてる―…!!」
「よっしゃ!カバン持った携帯持った…忘れ物なし!んじゃ、聖。校門まで競争だぜ!」
「えぇ〜っ?!ち、ちょっと待ってよおおおおおお!!」

聖をおいて龍冴はダッシュで音楽室から飛び出していった。
それを聖は慌てて追いかけて行く。

そんな彼ら軽音部の日常。





2011.04.05 修正

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