突然の訪問者






迎えた翌日。
新入生への発表用に聖の作った曲の朝練ついでに役割を確認しあう二人。
まだ7時を回っていないので校内は殆ど生徒の姿はなかった。
発表当日は明後日。聖の曲が完成したのが昨日。
ほぼギリギリの完成だったので、曲を作った聖本人はともかく、龍冴は明後日までに練習をしないといけない。

聖曰く、短めに詩を書くのにも中途半端にならないように作るのが難しいし、
ついこの前までベース入りの曲を書いていたのでベース無しという今回の状況が特殊なので難しかった。

「えーっと、オレは一年の校舎に乗り込む。お前は音楽室で待機…」
「オレも行きたいのになぁ〜…」
「お前はココに人が来るのを待つんだよ。折角、入部希望のやつが来ても誰もいなかったら問題だろ…」

というのも事実だが、実の理由は聖が校内を歩くとあっという間に人だかりが出来てしまうから。
特に、入学してきたばかりの新入生校舎なんて間違いなく波に飲まれるに違いない。

「ん〜わかった。」

聖は龍冴の考えてることもまったく理解せず、納得。



「ひっじりんいるぅー?!」

いきなりドアが開いたかと思うと、そこにはもう見慣れた青年が立っていた。
否、もう2人のまん前に来ていた。

「あっ、佑志。ひじりんって呼ばないでってあれほど言ったのにぃ〜;えっと、どうしたの〜?こんな朝早くから。」
「ゆ、佑志さんっ!おはようございます。」
「やぁ。龍冴君おはようっ。…早速で悪いけど、ひじりん借りてくから担任の先生の方によろしくね♪」

この青年は伍川 佑志。
駅の近くにある白崎高校の音楽教師で、聖と同じく「Stells」のメンバー。
龍冴と同じくドラマーで、プロとしてドラムをやっている佑志は龍冴の憧れでもある。
この人がこの学校に来るということは「Stells」関連のことだろう。

「・・・ってぇ?!聖借りてくって・・・??!」

そう。ここで聖を連れて行かれてしまったらいつ帰ってくるかわかったもんじゃない。
ということはだ。もし放課後も帰ってこなければ、1人で勧誘と曲練習をしなければならないのだ。

「なんか都合悪いかったっぽいけど、ごねんねぇ〜。それじゃぁ、ひじりん!行くぞーっ!!」
「龍冴ごめんね〜;明日からがんばろう?ってことで、今日は曲練習がんばって〜」

ずりずり。
当たり前のように会話を交わしながらも佑志によって聖は引きずられていった。
その後、龍冴は音楽室の窓から外を見ると、車の後部座席に聖を投げ入れていた。
・・・まぁ、聖も特に何も言わないくらいに馴染んだ何時ものこと。なのだが・・・

ばびゅん!

佑志の車は、あっという間に見えなくなった。

「・・・しょうがね。独りで練習するか・・・。」

こうして龍冴の独り寂しいドラムの音が学校に響いていた。





一方、その頃・・・

「ひじりん。今日なんか用事あったの?」

さっきの龍冴の様子を思い出したらしく、佑志は聖に問いかけた。

「えっとー今日から新入部員の勧誘しようかって話で・・・ベーシスト入れないと軽音部潰れちゃうんだよねぇ〜。
 それと、明後日が部活紹介の発表で・・・オレが曲完成させたの昨日だったから練習しなきゃ間に合わないかなー・・・という状況なだけだけど・・・?」
「だけって;それって結構大変なんじゃ・・・;」

何事もないようにすらすらと答えた聖にさすがの佑志も突っ込みを入れる。

「ん〜。でも、部員は4月いっぱいまでに入れれば良いんだよねー。それに、練習するのは龍冴が大変かなーってだけだしー。」

まぁ、曲を作った本人は大して練習の必要は無さそうだ・・・。
といっても、1人でギターとボーカルというのも大変な話だが;

「そうだね〜。・・・おっ、お二人さんはっけ〜ん!」

前方に見知った男女が2人。
男の方は桔槻 千早。聖とは中学時代同じ軽音部だった。
彼もまた「Stells」のメンバーで、ベースとボーカルを担当している。
女の方は、葉塚 沙那。
彼女も「Stells」のメンバーで、ボーカルとピアノを担当している。
二人は隣同士に住んでいる幼馴染だ。

「乗せるの?」
「当たり前。・・・後ろに千早乗せるからな?」
「…?なんで?」
「なんでもっ!」

信号が赤になって、止まると佑志は窓を開けて二人に声をかけた。





※聖のその後の話は『Stells』の1話につながります。





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あとがき

二日連続でUP。2話です。
とりあえずこちらでも他「Stells」メンバー紹介してみました。
そして『Stells』の1話に話をつなげてみました。
つまり、『Stells』の1話の前話ですね。

次回は聖に取り残された龍冴のお話。



‘06.9.7.(C)Sakuya Hanamai

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